『わたしとママのチョコレート物語』
上條さなえ 作、 岡本順 絵 文溪堂
こちらは私にとって、かけがえのない作品です。
悲しいとき、孤独なとき、世界が味方に思えないとき。
気がつけばこの本を手にとっています。
大好きなこの本、ご紹介させてください。
主人公は、埼玉に住む小学校4年生の和貴(かずき)。男の子に見えるけど、女の子です。
和貴は、おばあちゃんが怪我したとの知らせを受けて、ママと飛行機に乗っておばあちゃんの住む北海道へやってきました。
でも、そこで待ち受けていたのは思いもよらない展開で…
切ないくらいに小さな幸せの物語が、愛おしく紡がれていきます。
このお話の中ですごいのは、やはり人物の魅力です。
上條さなえさんの人物描写、神業です。
頑張りやで、いろいろガマンしながらも健気にママを励ます強さと、へこたれない芯の強さをもつカズちゃん。お腹が空いて、でもお金がないときに、北海道名物の豚丼ののぼりが目に入り、
「いつか、食べてやる。待ってろ、豚丼」
とつぶやくシーンがあります。この言葉、私が何か問題に直面したとき、いつも思い出します。
カズちゃんのママの彩ちゃんは、元ヤンキーの30歳でシングルマザー。ポリシーの金髪を指でくるくる巻きながら、「あたしなんかダメさ」って言っては、働く先々でケンカ沙汰を起こしてはクビになってきました。
仕事が続かず、カズちゃんにも頼ってばかり。ダメな母親だときっと自分を責めていると思うけど、死にものぐるいで和ちゃんをとってもいい子に育てた彩ちゃんはすごい!と私は思っています。
彩ちゃんとカズちゃんの2人の強い絆と愛情に、いつも目頭が熱くなります。
近所に住んでたら、ご飯いっしょに食べよってうちに誘うのに、っていつも思います。
一見、世間からつまはじきにされたような、お金もなく親戚からの人情にも見放されたかのようなふたり。
だけど、そんな中で支え合うふたりの周りには温かいひとたちが集まって、こころ震える交流がはじまっていきます。
辛い時に私がこの本を読み返したくなるのは、まさにこの部分に触れたいからなんだな、と思います。
上條さなえさんの作品には、独特の温かさがあります。
それは、私生児として生まれ、子どものころホームレスとして過ごしたこともあるご経験から生まれるものだろうと想像しています。
ちょっぴり涙の味がするお話も、あたたかな笑いで包み込んでくれる上條さんの作品の数かずは、
私にとって帰る家のような、かけがえのない存在です。
そして、この本の挿絵の素晴らしさ。
岡本順さんの絵が、上條さんの文とあいまって、人物を生き生きと浮かび上がらせてくれます。
岡本順さんの絵が大好きすぎて、憧れです。
どうやったら、こんなに生き生きとひとを描けるんだろう。
心から尊敬する画家さんです。いつか、原画をたくさん見られたら…と夢見ています。
こころが少し辛いとき、フッと笑って泣いて、元気になれる本。
ぜひ、読んでみてください。